野球を多少知っている人なら、この議論は一回は聞いたことがあるでしょう。
「一塁へは駆け抜けとヘッドスライディング、どっちが早いの?」
近年は「駆け抜けの方が早い」という結論を良く見かけますが実際はどうなんでしょうか?
ヘッドスライディングの方が早いんじゃないの?
昔、多くの人の共通認識にあったのは、ヘッドスライディングの方が早いということ。
その根拠としては、ヘッドスライディングをすれば、一塁に到達する直前に体が前に倒れます。そうすれば、体一個分得しそうな感じがしますよね?
しかしこの問題は、そんなに単純ではありません。
結論:技術が備わっていればヘッドスライディングの方が早い!
結論を先に言うと、ヘッドスライディングがとても上手ければそちらの方が早いが、そうでなければ駆け抜けの方が早くなるということがわかっています。
ここからは、ヘッドスライディングが上手い人とそうでない人では、駆け抜けとヘッドスライディングのどちらがより早いかの検証を見ていきます。
「駆け抜けの方が早い」とするスポーツメディアの検証
この議論について、アメリカの大手スポーツメディアESPNのSports Scienceが企画として、駆け抜けとヘッドスライディングのどちらがより早いのかを検証しました。
検証に協力した方は大学野球の経験者で、ヘッドスライディングが下手とは言えませんが、すごく得意というわけでもないようです。
以下がその検証ビデオ(英語)です。
Sport Science: Run Or Slide? - YouTube
動画の中では、駆け抜けとヘッドスライディングのビデオ検証をしています。
ビデオ検証の結果、「駆け抜けの方が平均して0.01秒早い」という結論に至りました。
ヘッドスライディングが遅くなると考えられる原因は以下の通りです。
- 飛ぶ瞬間、踏み込んだときに減速
- 地面との摩擦で減速
- その間も、駆け抜けでは速度を保てる
でも0.01秒ってどれくらいの時間なのでしょうか?ESPNの検証によると、この0.01秒の間に距離にしてボール一個分の違いが出ます。
大事な場面で、この違いは大きくなってきます。
「ヘッドスライディングの方が早い」とする論文
野球における一塁ベースへの走法の検証 -駆け抜け動作とヘッドスライディング動作の比較-(2019、岡本、山岡)という論文では、一塁駆け抜けとヘッドスライディングのタイム比較を立命館大学の準野球部員を被験者として行いました。
立命館大学は強豪で、大学野球を経験しただけの人よりはヘッドスライディングの技術が高いと考えられます。
検証の結果、平均して約0.04秒の差でヘッドスライディングのタイムの方が短いことがわかりました。さらに、被験者13人中10名はヘッドスライディングの方が良いタイムを示しました。
先ほどのESPNの被験者よりヘッドスライディングの技術が優れていると考えられている被験者では、ヘッドスライディングの方が早いという、異なる結果になりました。
検証のまとめ
異なる被験者で異なる結果が出ました。
これは想像となってしまいますが、ヘッドスライディングは練習すればするほどタイムを縮めることができます。
しかし、駆け抜けとヘッドスライディングがどちらが早いかを検証した研究はあまり多くありません。
また、論文によっては駆け抜けの方が早いとしているものも多いです。しかし、ヘッドスライディングの踏切位置を一塁に近くすればヘッドスライディングのタイムが縮まるとする研究もあります。
それでもヘッドスライディングはしない方がいい
論文の検証を参考にすると、ヘッドスライディングは練習すれば早くなる可能性があります。しかし、ヘッドスライディングはあまりお勧めできません。
ヘッドスライディングには怪我のリスクが付いてきます。指先からベースに突っ込むので当然といえば当然です。
先ほどの岡本、山岡の研究で行われたアンケートでは、準硬式野球部員の実に40%がヘッドスライディングで怪我の経験があると答えています。
プロ野球でも、一塁へのヘッドスライディングを禁止してるチームがあるらしいです。手を怪我したら一大事ですからね。
それでもヘッドスライディングをするとき
この検証結果がどうであれ、ヘッドスライディングをするのが有効なときはあります。
主に、タッチプレーを避ける場合などです。
内野ゴロを打った後、若干の悪送球で一塁手がベースの前に来ている場合があるとします。そのような場合は、タッチプレーから逃げるためにヘッドスライディングをしてタッチをかいくぐるなんて事もできます。
ただし、ヘッドスライディングの練習を十分しない限り駆け抜けの方が早い可能性の方が高いです。怪我のリスクとバランスをとって考えることが大事です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
研究と検証しているサンプル数が少ないので結論づけるのは早いかもしれませんが、ヘッドスライディングの技術がきちんとついていれば、ヘッドスライディングの方が早くなる可能性は十分あります。
ただし、怪我をせずにそこまで上手くなるには、ある程度のセンスも必要になるかもしれません。
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