今年2023年の野球界は、WBCの話題で大いに盛り上がりました。その中でも、4番バッターとして使われていた村上宗隆選手は、決勝トーナメントに進むまで、なかなか打撃の成績が出ませんでした。村上選手は昨シーズンの打率が3割を超える好打者です。
3割も打てるバッターでも、調子が悪いとあんなに打てないものなのかと不思議に思った方も多いはずです。
この記事では、村上選手のような3割バッターの調子の波を統計学的に考え、村上選手のような不調はどのくらいの確率で起こるのかを検証します。
前提条件として
野球では3割を打てれば好打者とされています。
ただし、好打者の要素にはホームランや四死球など、打率以外の部分にもあります。
この記事では、あくまでも打率のみに注目することとして考えていきます。
任意の打数でヒットを打つ本数は二項分布で表せる
打数とは、四死球などを除いた打席の数のことです。プロ野球選手が1シーズン通して試合に出るとき、500打数程度になります。
あるバッターが毎打数で3割の確率でヒットを打つと仮定します。すると、500打数のうちの安打数の分布が「二項分布」となります。
(同じような例として、「コインを10回投げたときに何回表が出るか」というものがあります。)
先ほどの安打数の分布において、安打数が $x$ 本となる確率 $p(x)$ は次のように表せます。
$$p(x)={}_{500}C_x 0.3^x 0.7^{500-x}$$
上記は高校数学で学習する組み合わせの式を使っています。
実際にいろいろな調子をシミュレーションしてみる
これを使うと、手で計算はできなくとも、コンピュータなどを使えばいろいろな確率が計算できます。ここでは、実際に以下の確率を計算してみましょう。
- 3割バッターが平均的なレギュラーの打率(.275)以下になってしまう確率
- 3割バッターがベンチを含めた平均的な打率(.250)以下になってしまう確率
- 3割バッターが日本シーズン記録(.389)以上を記録する確率
1. 3割バッターが平均的なレギュラーの打率(.275)以下になってしまう確率
本来ならば3割を打てるはずなのに、調子の波によって他のレギュラー選手と大差ない成績(.275)を残してしまう確率は11%です。
9シーズンに1回は平凡な成績になってしまいます。
2. 3割バッターがベンチを含めた平均的な打率(.250)以下になってしまう確率
本来ならば3割を打てるはずなのに、調子の波によって他の全ての選手と大差ない成績(.250)を残してしまう確率は0.77%です。
3割バッターがシーズンを通して、ベンチとスタメンを行き来するようになってしまうことは、さすがにほぼないみたいです。
村上レベルの選手ならば、WBCのような成績が1年続くことはないと言い換えることができるかもしれません。
3. 3割バッターが日本シーズン記録(.389)以上を記録する確率
打率の日本シーズン記録は1986年に阪神のバース選手が記録した.389です。
3割バッターがこの驚異的な数字を超えることができる確率は0.001%となります。
3割をコンスタントに打てるとしても、シーズンを通して4割近くの打率を残すことはほぼできないようです。
WBCの村上のような状況はどれくらい訪れるのか
WBCで村上選手は1次ラウンドで不振でした。1次ラウンドでの成績は14打数2安打。
先ほどのような分布を使って、村上が3割バッターだと仮定し、14打数で2安打以下となる確率を計算します。すると、16%という結果が出ました。
つまり、6回に1回はWBC1次ラウンドの村上選手以下の成績となってしまうということになります。
国際大会で重要な試合だったとはいえ、3割を打てるバッターでもこの程度の成績になるのは珍しくないことがわかりました。
実力がある選手が不振に苦しんでいるときは、案外長く使い続ければ、結果はついてくる可能性が十分あると考えても良いでしょう。
まとめ
村上選手は実際には不運なだけで、調子自体が悪くない可能性も十分ありました。
不振真っ只中の時は、これが本当に調子が悪いのか、運が悪いだけなのかがわかりません。
栗山監督が村上選手を使い続けたのは、運が悪いだけ、つまり結果がついてきていないだけと感じていたからなのでしょう。
不振ならすぐ代えろというのは、本人や本人をよく知る関係者にしか判断はできないはずなのです。